秋滄月冥渠睦夜 (お侍 習作82)

       〜 お侍extra  千紫万紅 柳緑花紅より
 



ただの触れ合いがこんなにも、
胸を温め、血脈を騒がすものだとは思いも拠らなかった。
触れるだけでも命を落とす、剥き身の刀を合わせるときの、
昂揚の裏側に張りついた、ひりひりと乾く慄きや、
殺気に炙られて尖る肌。
あとは堕ちるしかない臨界まで、
ぎちぎちと追い上げられたそれらに煽られ。
背条をきりきり、痛いほど絞り上げられる、
それは壮絶な緊張感の、何と甘美であったことか。
そんな強烈な刺激をのみ求めていたものが、

 「…。/////」

灯火を落とした閨房に組み敷かれ、
男臭くも屈強な懐ろに掻い込まれて。
相手の上背で総身の全てをくるり包まれながら、
荒々しい息、搦め合いつつ、
互いの唇を喰らいたいかのように、激しくもむさぼり合っている。

 「…。」

無言のままに覗き込んで来る深色の双眸には、
獲物への慈しみとそれから、野生の獣の残酷さが同居しており。
そんな眼差しが、だが、どうしようもなく愛惜くてならなくて。
ともすれば力づくで蹂躙されることが、なのに…どうしてか。
途轍もない悦びをもたらす不思議。

 ―― 睦みは甘く、求めは切なくて。

刀を振るう時には鋼のように堅くなる腕や、岩を詰め込んだような屈強な胸板。
猛禽のそれに似た鋭い眼差しも、
荒々しくも野趣あふれて、奔放凄絶、
鋭にして精悍なものが…はたと静まれば。
何とも実直そうな表情に染まる、落ち着き払った横顔が、
小憎らしいほど、胸が煮えるほど、好きで好きでたまらない。

  ―― 島田。

応えのないまま、されど、
ごつり、頑丈で武骨で大ぶりの強引な手に誘(いざな)われ。
その手へと身を投げた今宵もまた、
紅の胡蝶は、穹への翅をひしがれる。




  ◇  ◇  ◇


冷然とした白い貌の鋭さが、
唇を重ねるとそのまま、たどたどしい戸惑いに染まるかわいらしさよ。

 「…ん。////////」

熱をおびた吐息に濡れて、赤々と。
艶めかしい柔らかさに熟れた唇は、
触れる端から甘さを増して、いつまでも触れていたくての離れがたいほど。
そこを無理から引き剥がすよに見切っての、
顔を離して身を起こせば、
枕へ髪を散らかした白い顔の中、
陶然とした赤い眸が、
薄闇を透かしての真っ直ぐにこちらを見上げて来る。
穹を棲処に、ただでさえ人との縁みが薄かった彼だから。
人との触れ合い、慣れぬこととて、
当初は恥じらいや含羞みから、
はたまた矜持への固執から、身を堅く強ばらせてもいたけれど。

 ―― いつしか…我を忘れての素直奔放に

気持ちのいいこと、ほしがる身へと、
僅かずつ育ってゆくのが…麗美にも妖しくて。
組み伏せられた下からでさえ、
膝を立てての、しなやかな腿を擦り寄せて来、
焦らすこちらを急かして煽るも、もはや慣れたる手練手管。
隙間なくの重なった身に、隠しようのない熱が燠るを、
感じとっての、だのに咲笑う妖麗さよ。
そのくせ、

 「…っ。/////////」

ほんの弾み、まだ機を待たぬ思わぬ処へ触れたりすれば、
ひくりと肩を振るわせて、
見る見る頬染め、うろたえる稚さ。

  ――― 何だ。///////
      ? 何がだ?
      何が可笑しいかと訊いている。
      可笑しくなぞないが?
      なら、何故 笑っておる。//////

うなじから肩へと下っての、あらわにした胸元までもを赤く染めても、
気づかずにいる愛らしさへこそ苦笑が絶えぬ壮年殿。
終しまいには蓬髪引かれて謝るのがオチなのも いつものことで。
いつしか何もかもが一つになって、
熱く鎔け合っての、流れ着くは夜の底。
その行方、穹にまします煌月だけが知っている…。





  〜 Fine 〜  07.10.15.


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